夜香花
「えへへ~。美味しそう~」

 ほくほくと湯気を立てる芋に、嬉しそうに顔を綻ばせる深成に、真砂は最早口を挟むこともしない。
 ちなみに深成が持っている芋は、真砂の家にあったものだ。
 深成はちろりと真砂を見、少し考えて、芋を二つに割った。

「はい」

 小さいほうを差し出す。

「いらん」

「遠慮しなくても」

「……何で自分の家にあったものに、遠慮せんといかんのだ」

「調理したのは、わらわだもん」

 ほれほれ、と片手で芋を突きつけ、もう片方の手に持った芋にかぶりつきながら、深成が言う。
 真砂はため息をついた。

「……ほんとに、お前は何を学んできたんだか」

「何よ? 何か変? 一つのものを分けてあげようってのは、良いことじゃないの?」

「良いこと?」

 真砂の眉間に、思いきり皺が寄る。

「お前はこの流れに、何の疑問も持たないのか」

 先程から真砂の言うことは、深成にはさっぱりわからない。
 ここまでの流れに、どこかおかしいところなど、あっただろうか。
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