夜香花
「たとえば、俺がここで何か粥でも作って、お前に勧める。……ああ、そういえば、そういうこと、前にあったな」

「……勧められてはないけど。そうだ、あれは助かった。ありがとう」

 ぺこり、と素直に頭を下げる。
 が、すぐにがばっと顔を上げた。

「って、その前にあんたは、わらわを殺そうとしたんだから、お礼言うこともないんだった!」

 真砂は頭を抱える。
 はあぁぁ、と思いきり息をつき、胡乱な目で深成を見た。

「お前は何の疑問もなく、その粥を食ったってことだな。何故そんなことが出来るんだ」

「だって、お腹空いてたんだもん。何日何も食べてなかったと思ってんのよ」

「だからお前は馬鹿だと言うんだ。粥に何か入っているとは思わないのか」

 ここまで言われても、深成はきょとんとしている。
 ちなみに焼き芋は、すっかり深成の胃袋の中だ。

「あのとき、別に俺はお前を殺そうとしたわけではないが、お前はそう思ったんだろ。だったらなおさら、川から上がったお前にとどめをさすために、粥に毒を入れている可能性がある。そうは思わないのか?」

 深成は、あんぐりと口を開けている。
 その表情だけで、そんなことは露ほども頭になかったとわかるほどの間抜け面だ。
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