夜香花
「今しがたお前が食った芋だって、元々持っていた俺が食わないということは、すでに何か仕込んでるかもしれんということだ」

「ええええっ」

 深成が慌てて口を押さえる。

「な、生の芋に、何か仕込むことなんて出来るのっ?」

「お前の爺ってのは、一体何をお前に教えてきたんだか。そんなこと、基本だぜ」

「そ、そんな物騒なこと、教わったことない~。どうしよう~」

 うわあぁぁん、と泣き出す深成に、また真砂は頭を抱えた。
 今まで真砂が会ったこともないほどの、間抜けな子供だ。

「ねぇねぇ。謝るからさぁ、解毒剤ちょうだい。早くしないと死んじゃう~」

 えぐえぐと、深成が真砂の単の袖を引っ張る。
 思わず真砂は項垂れた。
 最早腹が立つどころではない。
 冷静さを保つため、真砂は大きく息を吐いた。

「だったら俺の質問に答えろ。お前はどんなことを教わってきたんだ。爺ってのは、一体どういう奴なんだ?」

「え、えっとぉ。とにかく身体を鍛えることと、あとは整息(せいそく)の術」

 着物を着ながら、真砂は、ほぅ、と少し眉を上げた。
 基本中の基本だが、なるほど、深成の整息の術は大した物だ。
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