夜香花
整息の術とは文字通り、息を整える術だ。
人は息をすることによって気配を生ずる。
己の気配を自在に操るためには、まず息を完璧に整えられるようにならなければならない。
呼吸を完璧に使いこなせれば、その他にもあらゆるところで役に立つのだ。
水の中を行くのも、煙の中を行くのも、常人より容易になる。
「それだけか?」
「んん……。あとは武術もそれなりに」
「それなりに、ね」
ふん、と鼻を鳴らし、真砂は小さくなった火を消した。
「ねぇねぇ。ちゃんと答えたからさぁ、解毒剤ちょうだい」
立ち去ろうとする真砂に縋り付き、深成が言う。
その深成を軽く蹴り飛ばし、真砂は踵を返した。
「それだけ元気なんだ。いい加減に気づけ」
「?」
「俺の作る毒薬が、そんなじわじわ効くものか。口にしてたら、とっくにお前なんぞ死んでるさ。解毒剤などない」
ひぇっと息を呑み、青くなった深成だが、次の瞬間には、がばっと立ち上がった。
「……てことは、端から毒なんて仕込んでなかったってことか! 騙したなぁっ?」
「騙した? 俺がいつ、『毒が入っている』と言った。『入っているかもしれん』と言っただけだ」
「入ってないとは言ってない!」
「阿呆なお前のために、可能性を教えただけだ。感謝しろ」
むきーっと憤慨する深成に冷たい視線を投げると、さっさと真砂は歩き出す。
背後では、まだ深成が何か叫んでいた。
人は息をすることによって気配を生ずる。
己の気配を自在に操るためには、まず息を完璧に整えられるようにならなければならない。
呼吸を完璧に使いこなせれば、その他にもあらゆるところで役に立つのだ。
水の中を行くのも、煙の中を行くのも、常人より容易になる。
「それだけか?」
「んん……。あとは武術もそれなりに」
「それなりに、ね」
ふん、と鼻を鳴らし、真砂は小さくなった火を消した。
「ねぇねぇ。ちゃんと答えたからさぁ、解毒剤ちょうだい」
立ち去ろうとする真砂に縋り付き、深成が言う。
その深成を軽く蹴り飛ばし、真砂は踵を返した。
「それだけ元気なんだ。いい加減に気づけ」
「?」
「俺の作る毒薬が、そんなじわじわ効くものか。口にしてたら、とっくにお前なんぞ死んでるさ。解毒剤などない」
ひぇっと息を呑み、青くなった深成だが、次の瞬間には、がばっと立ち上がった。
「……てことは、端から毒なんて仕込んでなかったってことか! 騙したなぁっ?」
「騙した? 俺がいつ、『毒が入っている』と言った。『入っているかもしれん』と言っただけだ」
「入ってないとは言ってない!」
「阿呆なお前のために、可能性を教えただけだ。感謝しろ」
むきーっと憤慨する深成に冷たい視線を投げると、さっさと真砂は歩き出す。
背後では、まだ深成が何か叫んでいた。