夜香花
「まぁいい。それで、その千代からの連絡は、まだないのか。すぐと言っても、昨日今日入ったばかりか。まだ何がわかる段階でもないかな」

 そう言って、真砂は顎を撫でた。
 今日見た屋敷の外観を思い出す。

 特に門を破るようなことをしなくても、あの造りからだと、その辺の壁から容易に入ることができよう。

「外は大体掴めたが、内側がわからん。普通に考えれば、何のことはない、ただの築地塀だがな。このような指令が出る辺り、何か仕掛けがあると睨んだほうがいいか……」

「内側がどうなっているかは、調べた上で入ったほうが良かろう。それにはやはり、千代の連絡を待つ他ない。人数はどうする? 敵を引き付けるにしても、真砂一人では無理だろう」

 特に相談することもなく、ぶつぶつと考える真砂を気にするでもなく、清五郎は話を進める。
 真砂もこういう清五郎の態度は慣れたものだ。

「中の人間を把握するため、茶屋の奴に見張らせた。出入りの者があれば、そこから内部の様子も、おおよそ想像できるだろう」

 仲間と協力して事に当たることはない真砂ではあるが、使えるものは使う。
 そのため、話し合いを拒否するということもない。

 自分の考えも、相手に伝える。
 そこから各自、勝手に動けばいいのだ。
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