夜香花
「ねぇねぇ。頭領、どうだった? 優しかった?」

 きらきらとした目を向ける二人に、あきは少し困った顔をした。

「えっと……。ど、どうだったかな。とにかく頭領が現れたときから、もう緊張しちゃって。こ、怖くって……」

 おずおずと言うあきに、二人ともきょとんとする。
 が、すぐに納得したように頷くと、また手を動かし始めた。

「そうねぇ……。狩りのときは、ただでさえ、どきどきしてるものだものね。そこへ頭領が現れるなんて……。確かに、あたしもどうにかなってしまいそうだわ」

「頭領は素敵だけど……怖いものね」

 先までの明るさが少し翳り、娘たちは、しばらく黙って洗濯に精を出した。
 特に里の者ともつるまない真砂だが、影響力は絶大だ。
 己で意識しなくとも、誰もが真砂の前にひれ伏す。

 それこそ持って生まれた天賦の才だが、真砂はまるで、野生の獣のようなのだ。
 あれほどの人を寄せ付けない空気、身につけようと思って身につけられるものではない。

---一体、どういう生い立ちなんだろう---

 ふと、深成の心に疑問が湧く。

 真砂は一人暮らしだ。
 ここ数日見たところ、里には普通に家族で住んでいる家もあった。

 というより、普通はそうなのだ。
 この、あきという娘だって、昨夜真砂が『弥平の娘か』と言っていた。
 ということは、家族があるのだ。

 何故真砂の家には、誰もいない?
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