夜香花
「でもそんなこと、頭領がお認めになるかしら? 人が傍にいるの、嫌がるお人じゃない。そうだ、それこそあき、あんた、頭領に気に入られたかもしれないから、お側に上がれるかもよ?」

「え?」

「頭領が狩りに加わるのって、珍しいじゃない。あきって知ってたのかしら?」

 初物狩りは、狩りが行われるまで、その対象が誰だかわからないわけではない。
 事前に誰を狩るのかは、自ずとわかる。

 まずは誰が対象になったかを長老たちに知らせ、それから狩りの日取りを決めるからだ。
 その間、別に秘密裏に事を運ぶこともない。
 対象の娘に気のある男は、事前情報を元に、我先にと祠へ向かうのだ。

「そうだとしたら、凄いわねぇ。あの頭領に好かれるなんて。羨ましい~」

「そ、そんな。だって頭領のところには、千代姐がいるじゃない」

 あきは赤くなって、桶の中の洗濯物を力任せにごしごしと擦った。
 どうやら、まんざらでもないようだ。

「あら。確かに千代姐は頭領にべったりだけど、頭領はそうじゃないわよ。だって千代姐、この前顔腫らしてたわ。どうも頭領に刃向かったみたい」

 娘の中でも一番年長と思われる女子が、一番情報通らしい。
 先の羽月の情報を提供したのも、この娘だ。
 情報通といっても、どうもそれは真砂に関することに絞られているようだが。
 この娘も、真砂を慕っているのだろう。
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