夜香花
「殴られたの?」

 ちょっと青くなって言うあきに、娘は頷いた。

「だって、刃物を向けたらしいわよ。頭領にそんなことするなんて、殺されても文句言えないわよ」

 ひぇっと娘たちは息を呑む。
 茂みの中で、深成も息を呑んだ。

 深成こそ、何度も真砂に刃物を向けている。
 向けるだけでなく、実際に何度も真砂に斬りかかってきた。

---た、確かにあいつは、容赦ない。わらわだって、思いっきり蹴り飛ばされたことあるもの---

 だが、明らかに自分の命を狙う深成に対して、真砂は殺意を見せない。
 殺そうと思えば、あっという間に殺せるだろうに。
 前にもちらりと思ったことが、また深成の心に浮かんだ。

「千代姐、何でそんなことを? 頭領を想うあまりの乱心?」

 ぶ、と深成は茂みの中で、ずっこけた。
 娘たちは年相応に、何でも色恋方面に思考が行くようだ。
 なかなか思考回路は過激だが。

「さぁ……。でもきっと千代姐さんのことだから、そっち方面ね。頭領が、誰か他の女子でも家に引き入れてたのかしら」

---わ、わらわのことかっ?---

 全然意識してなかったが、深成は普通に真砂の家に入り浸っている。
 帰る家はないし、深成は真砂を狙うためにここにいるのだから、出来るだけ近くにいるに越したことはない、という考えからだが。
 真砂も別に、それを咎めることもない。
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