夜香花
「まさか? 頭領、ご自分の家で女子を抱くことはしないじゃない。ああ、それこそ、千代姐さんだけか……」

 ちょっと悲しそうに、あきが言う。
 深成は顔をしかめた。
 昨夜あんな目に遭ったのに、あきは真砂を想っているようだ。

「千代姐は、強引に入り込んでるだけでしょ。……まぁ……確かに一番頭領と近しい女子かもしれないけど。でも好かれてるわけじゃないわ」

 つん、と一人の娘が言う。
 そして、元気づけるように、あきの背を叩いた。

「頭領のほうから、千代姐を誘ったことは、ないと思う。千代姐が必死に頭領を誘って、たまに頭領が応えるって感じよ。今回だって、前の指令を千代姐がこなしたことへの褒美でしょ?」

「ああ、そっか。だから余計、羽月がいきり立ってるのよ。自分は失敗したのに、千代姐が成功したから……」

 赤い顔で黙りこくっているあきの他の二人が話を進める。

「千代姐は、羽月とかあの辺の子を馬鹿にしてるものね」

「あたしらだって、そうだよ」

 ぷんすかと娘たちは、千代の悪口を言う。

「だから、あきは頑張って、千代姐さんから頭領を取っちゃいな!」

「ええっ」

 娘二人にけしかけられて、あきはますます赤くなって狼狽える。

「幸いにして今は千代姐、清五郎様と懇ろみたいよ」

「捨吉も、千代姐と寝たことあるわよ」

「あれは千代姐が、捨吉を抱いたのよ。そんな下位の乱破、千代姐が相手にするわけないじゃない」
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