夜香花
 きゃきゃきゃ、と明るい笑い声を残し、娘たちはおのおの桶を抱えると、笑い合いながら里のほうへと去っていった。

 深成はしばらく茂みの中で、じっとしていた。
 娘たちの話は、深成には軽い衝撃であった。

 元々色恋には疎い。
 そういう環境になかったので、年頃の娘らしい感覚は、著しく乏しいのだ。

---千代は……真砂を好いてるのに、今は清五郎とかいう人に引っ付いてるの? いや、清五郎だけじゃないのか。女技って、そういうこと?---

 乱破の修行としての行為だろうか。
 女技だって、それなりに鍛錬は必要だろう。

 この里での初物狩りだって、その一環だ。
 狩りを終えた娘は、里の男に身を任す。
 それによって、女技を磨いていくのだ。

 それは、頭ではわかっている。
 だが。

---嫌だーーーーっ!!---

 深成は茂みの中で悶絶した。
 幼い深成には、どうしても女技のために、あらゆる男に身を任すということが受け入れられない。

 乱破であれば当たり前のことだと真砂は言ったが、深成は絶対嫌だ。
 この違いは、しっかりとした乱破の里で生まれ育った者と、そうでない者の違いだろうか。

---わらわも、元からここで育ってたら、別段嫌悪を抱くこともなく、どんな男にでも抱かれたんだろうか---

 くすんくすんと鼻を啜り上げながら、深成は立ち上がった。
 着物についた葉っぱを払いながら、里のほうへと歩き出す。

 が、ふと足を止め、少し周りを見渡すと、傍の茂みに屈み込んだ。
 そこに生えているキノコを摘み取る。

---お腹空いた。随分長い間、隠れてたからな~。もう日も高くなっちゃったし、何か作ろう---

 持ったままだった単にキノコを包み、深成は再び、里のほうへと歩き出した。
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