夜香花
 真砂は再び、ふんと鼻を鳴らすと、視線を羽月に向けた。
 それを受けて、羽月が動く。

「お前みたいなガキ、敵でもないわ!」

 叫び様、地を蹴って刀を振るう。

「わっわっ」

 深成は慌てて、繰り出される羽月の刀を避ける。
 その様子を、真砂は座ったまま、興味深そうに眺めた。

 一見必死にただ逃げ回っているだけのように見えるが、よく見ると身体の動きは最小限に、紙一重で避けている。
 ぎりぎりだが、確実だ。
 それはお遊び程度に武芸を習った小娘などに出来る技ではない。

「……くっ……。このっ」

 簡単に仕留められると思っていた相手に翻弄され、羽月は焦った。
 真砂が見ているのだ。
 失敗を重ねるわけにはいかない。

 一度刀を大振りに振ると、羽月は素早く片手を払った。
 複数の苦無が、深成目掛けて飛ぶ。

「っ!!」

 深成が息を呑んだ。
 今までは、ただ攻撃を避けていたが、複数の武器に襲われては、避けるのは難しい。

 深成は持っていた刀を抜いた。
 身体を沈めると共に、抜刀の勢いのまま、思いきり刀を振る。
 金属音を発し、苦無が地に落ちた。
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