夜香花
「そうかもしれんが、死に物狂いで避けたって、避けられない奴は避けられない。お前はいきなり複数の苦無に襲われても、全て避けたじゃないか。ちょっと出来ることじゃない」

 きょとん、とした深成だが、不意に、ぱ、と明るく笑った。
 さらにずいっと、真砂に近づく。

「あんたも人のこと、褒める事も出来るんだ。どうだ、わらわの実力を思い知ったか」

「褒めたわけではないがな……。けどまぁ、お前がそういう奴だから、俺はお前を殺さないのさ」

 またわくわく、という風に、無邪気に覗き込んでくる深成の顔を邪険に押しのけ、真砂はちょい、と足元の苦無を指した。

「それのほうが、お前には軽くて良いだろう。取っておけ」

 言われて深成も、足元に視線を落とした。
 先程羽月に投げつけられた苦無だ。
 持ってみると、真砂の苦無よりも少し小さく、軽い。

「ん~……。確かに軽いけど……」

 ぶんぶんと軽く振って、感触を確かめていた深成だが、いきなりぎらっと真砂を見ると、持っていた苦無を、えいっと投げつけた。
 が、真砂はそれを受け止めた。

「えっ」

 深成が目を剥く。
 投げられた苦無を、弾くでもなく避けるでもなく、受け止めるとは。
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