夜香花
 真砂は、にやりと口角を上げた。

「おらっ」

「ひいっ!」

 ぶん、と思いきり振り下ろされた苦無を、深成は必死で避けた。

「……」

 あまりの恐怖に、声も出ない。
 ただ深成は、目の前で笑う真砂を、震えながら見つめた。

 先の攻撃には、一切の躊躇いもなかった。
 深成が自力で避けなかったら、真砂は本気で深成の身体に苦無を突き立てていただろう。

「ほれ。この至近距離で、いきなり攻撃しても、お前は避けることが出来る」

 何事もなかったように、真砂はぽい、と苦無を投げて寄越した。
 うわわ、と深成は、また苦無を避ける。
 かちゃん、と苦無は、深成の足元に落ちた。

「……それは、そんなに凄いことかな?」

 しゃがんで苦無を取りながら、深成が言う。
 ただ避けているだけではないか。

「お前のような者にしては、まぁ……凄いことなんじゃないか? 現に羽月は、俺が声をかけてから投げた苦無も避けられんかった」

「ああ、あの子……」

「あいつの攻撃はどうだった?」

「?」

 意外な質問に、深成は首を傾げた。
< 140 / 544 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop