夜香花
「優秀ねぇ……」

 にやにやと、真砂が顎を撫でる。
 その優秀な武将を一撃で倒した真砂からしたら、そのような者、護衛にもならない。

「あんたは頭領なんだから、そりゃ単なる乱破よりも強いんだよ。普通の乱破だったら、あのおっちゃんだって負けてないよっ」

 深成が、馬鹿にしたような真砂に、口を尖らす。
 が、さらに真砂は、ふんと鼻を鳴らした。

「千代だって、難なく入り込めたじゃないか。油断しすぎだ」

 うぐっと深成が唇を噛む。

「お前は驚くほどの身体能力を見せるかと思えば、変に無防備だ。乱破としての知識は、本能的なものしかないのかな」

「何よ、本能って。そんな動物みたいに言わないでよね」

 がるる、と深成は牙を剥く。
 が、真砂は少し真剣に深成を観察した。

「本当の動物的本能なら、お前はさっき、羽月を殺してるはずだぜ」

「えっ」

「頭ががら空きの敵なんざ、襲ってくださいと言ってるようなもんだ。梁に飛び乗ったら、間髪入れずに俺なら脳天目掛けて攻撃する」

 ましてあのとき羽月は、お前がどこにいるのか、さっぱり気づいてなかったしな、と言い、真砂は床に転がったままの刀を取った。
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