夜香花
「だ、だって、あんな手首だけを縛られたら、どうやって抜けろっていうのさ。わらわが教わったのは、身体全体に縄をかけられたときの方法だもんっ」

「そういうのが、身を入れてないというんだ。あらゆる場面を考えないと、お前は今頃、ここにはいないぜ」

 むむむ、と考える。
 確かに縄抜けを教わっても、役に立たねば意味がない。

「でもっ。身を入れて習ってないって言いながら、あんたはさっきの子よりも、わらわが優れてるみたいに言ってるのは、おかしくない?」

「優れてるとは言ってない。同等ぐらいかとは思ったが。だからこそ、お前のその動きは、本能的なものだと言うんだ」

「???」

 ぽかんとする深成に、真砂はため息をついた。

「産まれたときから、れっきとした乱破として育ったのに、羽月にはそういう感覚はない。反対に、お前は多分、村娘に毛が生えたぐらいの忍びの者だろ。それは大きな違いだ」

「え~……? あんた、小難しく言い過ぎ。もっとわかりやすく言ってよね」

「別に小難しく言ってない。お前が阿呆なだけだ」

 深成はすかさず、手に持っていた苦無を投げつけた。
 が、やはり真砂は、それを受け止める。
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