夜香花
「あんたはさ、ずっとそうやって、一人で全部こなしてきたの?」

 深成は真砂の横で、膝を抱えた。
 目の前のこの男が、それほどの人間なのか。

「一人……とは言わんかな。折角その辺に、それなりの者がいるんだ。使えそうな奴は使うさ」

「さっきの子も、使えそうだったから、わらわに差し向けたの?」

「まぁ……そういうことだ」

 真砂は目を閉じたまま答える。
 一見隙だらけに見えるが、きっと今苦無を投げつけても、軽く受け止められるのだろうと、深成は下手に動くことはせず、ただじっと真砂を見つめた。

「あの子、あんたがお方様を殺したとき、捕まった子だよね? あの子はあんたが助けたの?」

 ふ、と真砂が目を開けた。
 当時を思い出すように、束の間空(くう)を見る。

「そんなこともあったな。勝手についてきたんだ。それで捕まっても、知ったことじゃない。そういう奴がいるから、群れるのは嫌いだというんだ。そんな奴を助けに行くほど、俺は暇じゃない」

 そう言って、真砂はむくりと起き上がった。
 そのまま立ち上がり、戸口に向かう。
 深成は何となく後を追おうとして、ふと腰を上げかけた。
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