夜香花
「……何だ?」

 真砂が、戸口に向かって低く言う。
 そこに、一人の少女が立っていたのだ。

「あ、あのっ。お夕餉を……」

 懸命に言葉を紡ぐように言うのは、以前真砂に『狩られた』あきだ。
 手には、小さな盆を持っている。
 布がかかっているのでわからないが、真砂に夕餉を持ってきたのだろう。

 深成は、くんくんと鼻を動かした。
 僅かに良い匂いが感じられる。
 それを感知した途端に、深成のお腹が、くるる、と鳴いた。

 あきが驚いて、視線を動かした。
 そこで初めて、奥に座る深成に気づく。

「え? あ、あの。と、頭領……?」

 あきは狼狽えて、真砂と深成を交互に見た。
 真砂の家に、千代でもない女子がいること自体が信じられない。
 しかも、己よりも幼いような幼女だ。

「あ、わらわは別に、こいつの特別な何かじゃないから」

 深成が気を利かせて、あきに言う。
 が、あきの怪訝な表情は変わらない。
 真砂までが、妙な表情で深成を見た。
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