夜香花
 ぽかん、と深成は絶句した。
 本当に、真砂は自分以外の者を信用しないのだ。

「……勿体ない」

 ぼそ、と呟いた深成に、真砂は、ふんと鼻を鳴らした。

「だったら、お前が食えばどうだ?」

 そう言って、あきの手から盆を奪うと、深成に押しつける。
 そして自分は、あきの腕を掴んだ。

「丁度良い。お前、ついて来い」

「え、は、はい」

 何が何だかわからず、おたおたと、あきは真砂の後についていく。
 深成は真砂に押しつけられた盆を持ったまま、その様子を眺め、二人が木陰に見えなくなってから、その場にぺたりと座った。

 すでに夕闇が迫っている。
 盆にかけられた布を、そろ、とめくってみれば、ほわ、と良い匂いが深成の鼻とお腹を刺激した。
 このようにちゃんとした食事、久しぶりだ。
 ごくりと深成の喉が鳴る。

「ど、どこに行ったんだろ」

 食べたいが、食べたら負けのような気がする。
 昼間のあきたち、娘の会話を聞いた身としては、まさかこの食事に毒が入っているとは思わないが、あれだけ馬鹿にされた後だと、口を付けるのは躊躇われる。

 深成は目の前の美味しそうな食事から気を逸らすべく、立ち上がって真砂を捜しに家を出た。
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