夜香花
「あ、ちょっと違う? 千代の相手の人は、千代を好いてるみたいだったな」

 ぼそ、とさらに呟く深成の横に、真砂は黙って立っている。
 ちらりと深成は、真砂を見上げた。
 いつもと変わりない、無表情。

「あんたは違うよね。あの子を気に入ったわけじゃないでしょ」

 昼間の娘たちは、あきは真砂に気に入られたかもしれない、と言っていたが、深成には、真砂があきを気に入ったとは思えない。
 いや、あきに限らず、この男が誰かを気に入る、ということがあるのか、と思う。

「何故あの娘を気に入る? 特に何の興味も引かん。気に入る要素なんぞない」

 言い捨て、真砂は歩き出す。
 深成も、は、と気づいて真砂の後を追った。

 あきが近くにいるのに、いつまでもここにいるのは、よろしくないだろう。
 さっき真砂も言ったように、深成は部外者なのだ。
 誰彼構わず姿を曝すのは避けたい。

「ところでお前、あの飯食ったのか?」

 真砂に言われ、深成は歩きながら、ふるふると首を振った。
 思い出した途端、くるる、と深成の腹が鳴る。
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