夜香花
「あんたはあの子が、ここに毒を入れてるかもって思うわけ?」

「いいや」

 意外に真砂は、あっさりと首を振った。
 深成のほうが、きょとんとして真砂を見る。

「あの娘にゃ、俺を殺す理由がない」

「だったら、そんな警戒しなくてもいいじゃん。意地張らずに、これ食べれば?」

 わけがわからない、というように、深成は、びしっと盆を指差した。
 が、真砂は深成を顎で指す。

「だから、お前が食えばいいと言うんだ」

「もしかして、わらわのために置いてくれてるの」

 おやおや、と深成は真砂ににじり寄った。
 深成の夕餉まで作るのは照れ臭いので、折良く手に入った食事を、深成にあげようとしているのかと思ったのだ。
 意外に可愛いじゃないか、と、俄然深成は真砂に親近感を抱く。

 が。

「……言っただろう。俺は、自分の手から離れた時点で、信用などしない。自分以外は信用しない、と言ったほうが、阿呆なお前にはわかりよいか」

「へ? 毒が入ってるとは思ってなくても、自分が作ったものじゃなかったら食べないってこと?」

 真砂は頷く。
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