夜香花
第二章
「真砂っ」

 今まさに出かけようとしていた真砂は、いきなり呼び止められて足を止めた。
 渋い顔で振り返る。
 清五郎が、手に紙切れを持って走ってきていた。

「矢次郎からの報告だ」

 矢次郎とは、昨日茶屋で話した男だ。
 真砂は黙って、清五郎から紙を受け取った。

「大した出入りもないようだな」

「使いに出るのも、女だけのようだな。あとは出入りの商人ぐらいか」

 ますますわからない。
 真砂はとりあえず、歩き出した。
 清五郎がついてくる。

「千代からの報告は?」

「何も。不穏な動きがある、とだけか。そんなことはわかってるんだ。使えねぇ女だ」

「あいつも、どうしていいのかわからんのかもな」

「状況に応じて動けないようなら、用無しだ」

 吐き捨てるように言いながら歩いていく真砂の後ろを歩きながら、清五郎は、きょろ、と周りを見渡した。
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