夜香花
「お前が今、目の前で夕餉を用意したって、俺は食わない」

「ええっ。どこまで人を信用しないの。目の前で作ったら、毒なんか入れられるわけないじゃん」

「そうかな? 俺だったら、それぐらいわけないぜ。お前の目の前で、毒入りの粥を作って食わせることだって出来る」

 にやりと笑う真砂に、深成はぞっとした。
 が、両拳で、ぼん、と自分の膝頭を叩き、次いでびしっと真砂を指差す。

「折角あの子が、あんたに気に入られようと、お世話焼いてくれてるのにさっ。大体あんた、勝手すぎ! あの子の好意は受け入れないくせに、自分の都合であの子を弄んでるじゃないか」

「弄ぶ?」

「さ、さっきあんた、あの子と何してたのさっ。どうせまた、あのとき祠でしてたようなこと、してたんでしょっ」

 赤い顔で抗議する深成とは対照的に、真砂は、ああ、と軽く呟いた。

「それが何だよ。狩りを終えた娘は、誰が手を付けたっていいんだぜ。丁度良いときに、あいつが来たってだけだ」

「あの子じゃなくても良いわけっ?」

「ああ。千代が一番手っ取り早いが、あいつはしつこいからな」

 深成は赤い顔のまま、ふるふると震えている。
 このような野獣と一緒にいるのは、己の身が危険なのではないだろうか。

 そんな考えが、知らず態度に出てしまう。
 深成は両腕を己を抱くように巻き付けた。
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