夜香花
 が、考えてみると、真砂にはすでに裸を見られている。
 初めに真砂に捕らわれていたときに、清五郎に身体の隅々まで調べられたし、その後もしばらくはそのまま着物を直すことも、ままならなかったのだ。

 その他にも、着物を剥ぎ取られたこともあるし……と思い出し、深成はまた、ぼん、と膝頭を叩いた。

「ちょっと! あんた、散々わらわと一緒にいて、わらわには何の興味も示さないってどういうことよ!」

 鍋の蓋を取って、小さく刻んだ芋を放り込んでいた真砂は、ふと顔を上げた。

「何だ、抱いて欲しいのか?」

「そそそ、そうじゃなくて! 誰でもいいって言うわりには、選り好みしてるじゃないかと思って! 失礼じゃないか」

 それこそ目にも留まらぬ速さで、すさささっと真砂から離れた深成に、真砂は少しだけ考えた。
 そして、鍋の蓋を戻すと、いきなり床を蹴った。
 一足飛びに深成に迫る。

「~~~っ!!」

 深成は大きく目を見開いて、迫る真砂から逃げる。
 しばらくばたばたと、家の中を必死で走り回った。

「すばしっこいな……」

 真砂が呟き、同時に足を蹴り上げた。
< 161 / 544 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop