夜香花
「あ」

 ちょい、と指先で鼻を触り、深成はころりと仰向けに転がった。
 そして、ずず、と鼻を啜る。
 その様子を眺め、真砂は息をつく。

「ほんとにお前は、警戒心がないな」

「いーっ。あんたはわらわを殺さないって、わかってるもん」

「殺さない? 何故そう思う」

「あんたがわらわを殺そうとしたら、わらわが何をしたって殺されるでしょ。だったら警戒するだけ無駄じゃん?」

 警戒ばっかしてたら、疲れちゃうんだも~ん、と言いつつ、ふぁ、と欠伸をする。
 そして、あきの持ってきた盆を引き寄せると、がば、と起き上がるなり口を付けた。

「……それも、警戒しない故の行動か」

 もぐもぐと夕餉の膳を平らげていく深成に、真砂は胡乱な目を向けた。

「違うもん。食べ物は粗末にしたら、罰が当たるんだから。食べ物の大切さは、爺にとっくりと教わった」

「まぁ確かにそうだが、それで死んだら意味ないんじゃないか?」

「あんたは別に、これに毒が入ってるとは思ってないんでしょ。だから大丈夫」

「俺が食わなくてもか」

 こっくりと、深成は頷く。
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