夜香花
「行き帰りはさ、爺が負ぶってくれたから」

「は?」

「爺は凄いんだよ。風のように走るんだ。だから、わらわにはどこをどう通ってるのか、さっぱりわからないんだけど。どっかの山里に、あっという間に着くんだ」

 ほぅ、と真砂が、少し興味をそそられたように、僅かに身を乗り出す。

「その爺っての、名前は?」

 この阿呆な娘を調べるよりも、深成を育てた爺を調べたほうが早いかもしれない。
 赤目の里は、ここからはかなり遠い。
 それを毎日事も無げに走りきる忍びなら、相当な忍びだ。
 有名であれば、名も知れていよう。

「名前……」

 深成が考える。

「ちゃんとした名前は知らないけど……。でも、どっかに仕えるお侍だったみたい。ん~と」

 やっぱり阿呆に聞いても、あんまり役には立たんかな、と、真砂は自分の持っている情報を元に考える。
 深成の党……。

「う~ん、わからんな……。深成の党自体が、知る人もないような党だしな」

 首を捻る真砂に、深成は不満そうに口を尖らせた。
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