夜香花
「……だって、昔のお屋敷でのことは、思い出したくないんだもん」
「?」
「あそこの殿は癇癪持ちで怖いしさ。たら姫様には苛められるし」
「たら姫……」
「お方様の下の姫様。わらわとほとんど同年代だから、遊び相手にって言われてたんだけど、たら姫様はすっごくわらわのこと苛めるから嫌いだった。わらわのこと、凄く馬鹿にしてたし」
「それはしょうがないんじゃないか? お前は馬鹿だし」
すかさず深成は、傍に置いていた苦無を投げつけた。
当然ながら、難なく真砂は苦無を受け止める。
「学問を受けられる状況にある人と、わらわを一緒くたにしないでよね!」
ぷんすかと怒る深成に、真砂は少し眼を細めた。
持った苦無をくるくるっと指先で回し、ぴたりと深成に向ける。
「俺がお前を阿呆だと言うのは、学問どうこうではないんだがな」
ただ忍びとしての警戒心が著しく乏しいだけで、頭の回転自体は速いのではないかと思う。
警戒心のなさは致命的だが、攻撃や武器に関することの理解力は半端ない。
「育った環境故か。じいさんの元では、武術を習ったと言っていたな。身を守る術は習わなかったってことか? いや……警戒心がないってことは、『襲われる』ことを想定しての武術ではないってことか?」
「?」
「あそこの殿は癇癪持ちで怖いしさ。たら姫様には苛められるし」
「たら姫……」
「お方様の下の姫様。わらわとほとんど同年代だから、遊び相手にって言われてたんだけど、たら姫様はすっごくわらわのこと苛めるから嫌いだった。わらわのこと、凄く馬鹿にしてたし」
「それはしょうがないんじゃないか? お前は馬鹿だし」
すかさず深成は、傍に置いていた苦無を投げつけた。
当然ながら、難なく真砂は苦無を受け止める。
「学問を受けられる状況にある人と、わらわを一緒くたにしないでよね!」
ぷんすかと怒る深成に、真砂は少し眼を細めた。
持った苦無をくるくるっと指先で回し、ぴたりと深成に向ける。
「俺がお前を阿呆だと言うのは、学問どうこうではないんだがな」
ただ忍びとしての警戒心が著しく乏しいだけで、頭の回転自体は速いのではないかと思う。
警戒心のなさは致命的だが、攻撃や武器に関することの理解力は半端ない。
「育った環境故か。じいさんの元では、武術を習ったと言っていたな。身を守る術は習わなかったってことか? いや……警戒心がないってことは、『襲われる』ことを想定しての武術ではないってことか?」