夜香花
「妙?」

「ガキが羽月を殺したら、俺が怒ると思ったらしい」

「ほぅ? 何故」

 興味深そうに、長老は心持ち上体を乗り出した。
 真砂は軽く肩を竦めてみせる。

「さぁ? 『仲間を殺されて、黙っていられるのか』とか言ってたな」

「なるほど」

 ふぉふぉふぉ、と笑い、長老は、うんうんと頷いた。

「なかなか、心優しき刺客ですな」

 真砂が訝しげな顔になった。
 そんな真砂に、長老は己の着物の裾をめくってみせる。
 皺々の足に、引き攣れたような火傷の痕が広がっていた。

「『御影(みかげ)』に通じるもののある子供ですな」

「……何が言いたいのだ」

 特に何の感情もなく、傷を眺めながら、真砂が言う。
 長老は裾を直すと、軽く首を振った。

「仲間を想う優しさが、人一倍強い、ということでしょうな。頭領の、最も嫌う感情でしょう」

 真砂は黙って視線を逸らせた。
 しばらく部屋を、沈黙が満たす。
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