夜香花
「俺は、そんなことを言いに来たんじゃないんだ」

「さようでしょうとも」

 終始穏やかに、長老は囲炉裏に火箸を突っ込んで、火種に丁寧に灰をかけた。

「その刺客、ただ者ではありませぬな。果たして刺客なのかも。幼い身でこの里に入り込めたことといい、けしかけられた敵を殺さないところといい。それに何より、頭領のお側にいられることといい」

 最後はにやりと口角を上げて、長老が言った。

「羽月はあれだけ冷酷に追い払ったのに、その刺客は追い払わないのですか? 羽月に勝ったからですか?」

「追い払っても、懲りもせずに付きまとうんだ。俺を殺すためには近くにいるべきとか抜かすが、そのわりに警戒心の欠片もない。俺の前で、熟睡するしな」

「……それはまた、肝の太い……」

「勝手に人の家の食材は食うし、一目でわかる毒キノコを俺に食わそうとして、てめぇで食って泣き喚くし、当然のように俺の家で眠るしよ」

「……それは、刺客……なのですか?」

 呆れ気味に言う長老に、真砂は渋い顔のまま、大きく頷いた。
 深成の所業を思い出しているうちに、腹が立ってくる。
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