夜香花
「あんな間抜けは初めて見た。驚くほどの身体能力を見せるかと思えば、それと同じぐらい驚くほどの間抜けさを見せる。世間のガキってのは、あんなものなのか?」

「……頭領を驚かせるとは、これまた珍しい子供でありますな」

「細川の室に仕えていたそうだ。たら姫の遊び相手だったようだな」

 え、と長老が呟き、危うく傍の器を倒しそうになる。
 少しの間固まり、ややあってから、心持ち身を乗り出して、おずおずと口を開く。

「あの。その子供、女子……なのですか?」

 真砂は訝しげな顔のまま頷いた。
 何を今更、と思ったが、考えてみれば深成の性別は、ここまでの話には出てきてない。
 長老は再び固まり、今までの話を反芻した。

「そのような小さな女子でありながら、頭領が驚くほどの能力を見せるとは。細川に仕えていた女子……ですか」

「仕えていたわけではないかもしれんが。単なる連絡係的な情報源だったと見ていたが、考えてみれば、屋敷にいたからって味方とは限らん。細川の、敵方の間者だったのかな」

 伊賀の忍びが細川についているという話は、聞いたことがない。
 もっとも忍びのこと、そうそう動向がわかるものでもないが。
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