夜香花
第十三章
 その少し前、深成は一人、ごろごろと寝転がって、部屋の中を物色していた。
 真砂がこの夜に、どこに行ったのかは知らないが、下手に追って行って、またさっきのような場面を見るのもご免だ。

 暇に飽かせてごろごろしていた深成は、ふと思いついて起き上がった。
 隅にまとめてあった、羽月の苦無を引き寄せる。
 一本を持ち、手の中で感触を確かめる。

---う~ん、やっぱりこのままだと滑るなぁ。慣れれば何とかなりそうだけど---

 くるくると回したりしてみるが、やはり真砂の苦無よりも使いにくい。

---そりゃ、こっちのほうが軽いけど。その分滑るし。これを真砂のと同じように加工して貰ったら、使いやすくなるかもな---

 とはいえ、真砂がわざわざ深成のために、この苦無を加工してくれるとは思えない。
 見よう見まねで、自分でやるしかないかな、と思っていると、かたりと戸が動いた。

 びく、と深成は、持っていた苦無を構えて、細く開いた戸を睨む。
 ゆら、と外の空気が揺れた。

 深成は身を隠すべきか悩み、きょろ、と周りを見回した。
 が、迷っているうちに、戸はすらりと開く。

「あ、千代」

 一応知った顔に安心し、深成は構えていた苦無を下ろした。
 だが千代は、深成を見るなり、不快そうに眉を顰める。
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