夜香花
「ち、違うよ。ええっと、そうそう、あの、真砂に狩られた子たちが話してるのを、偶然聞いたの」

「真砂様に狩られたぁ?」

 千代の片眉が上がる。
 真砂に関することは、恐ろしい勢いで脳みそに浸透するようだ。
 また深成は、あわわ、と慌てた。

 が、千代は、ふい、と身体を起こした。

「だったらいいさ」

「……へ?」

 ぽかんとする深成を放し、千代は身体の力を抜いた。

「真砂様が言ったわけじゃないんだろ。それなら別に、誰が言おうと構わない」

 少し乱れた髪を手ぐしで梳きながら言う千代を、深成はまた、まじまじと見た。

「千代は、真砂のことが好きなの?」

「当たり前じゃないか」

 当然のように言う千代に、深成はがばっと上体を起こした。
 そして、ばん、と床を叩く。

「だって、なのに千代、清五郎って人とも、他の男の人とも……」

 千代の、真砂に対する想いが並々ならぬのは、先の必死さでもわかるが、そんなに想う男がいるのに、何故他の男に身を委ねるのだろう。
 理解できず、深成はばんばんと床を叩いた。

「真砂だって、好きでもないくせに、誰でも抱くしさっ。真砂を好く子は多いみたいだけど、何であんな男のことを、皆好きになるのさ」

「何言ってんだい。真砂様ともあろうお人が、一人の女で満足するなんてこと、あるわけないだろ」
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