夜香花
「……」

 戸を開くなり、真砂は軽く額に手を当てて目を閉じた。
 その眉間には、深く皺が寄っている。

 そんな真砂の様子を見、後ろから長老が、部屋の中を覗く。
 そして、驚きに目を見開いた。

 いつもは髭や長い眉で表情などわからない長老だが、それでもわかるほどに、驚いているのだ。
 視線は、部屋の真ん中に転がって、ぐーすかと寝息を立てている少女に釘付けだ。

「……わかっていたこととはいえ……日増しに大胆になりやがる。もう警戒心の欠片もないじゃないか」

 柱に手を付き、真砂が呻くように言う。
 長老はいまだ、口を大きく開けて固まっている。

「とりあえず入れ」

 真砂に促され、やっと長老は我に返った。

「あ、はい」

 そそくさと部屋に入り、そろそろと深成に近づく。
 じぃ、と眠る深成を見つめ、ややあってから、はぁ、と息をついた。

「確かに……これは寝たふりなどでは、ありませぬなぁ……」

「理解に苦しむ……」

 渋面のまま真砂は呟いて、ふと深成の傍らにある苦無を見た。
 真砂の苦無だ。
 持ち手に巻かれた荒縄が、半ばほど解かれている。

 真砂はそれを手に取ると、ちらりと深成を見、いきなりそれを投げつけた。
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