夜香花
「あんたもさぁ、もうちょっと千代に優しくしてあげたら? でないとわらわ、千代に恨まれそう」

「何故だ」

「だってさぁ。わらわがここにいることが、千代には不満らしいんだもん」

「俺も不満なんだがな」

 ぼそ、と言う真砂に、深成は、いーっと顔を突き出す。

「それこそ『知ったことか』だよー。どうだ、これ言われたら悔しいでしょー」

 再び真砂は、額に手を当てて目を閉じる。
 こいつの相手をするのには、かなりの忍耐力が必要だ。
 精神の修行にはいいかもな、などと思いつつ、気を静めるよう努力する。

 深呼吸して顔を上げると、長老が、必死で笑いを噛み殺していた。
 真砂の視線に気づき、ごほん、と咳払いして姿勢を正す。

「わしは、この里の長老の長じゃ。中の長老と呼ばれておる。お主に少し、話を聞きに来たのじゃ」

「わらわに?」

 目を擦り、深成は居住まいを正す。
 一応長老だということなので、それなりの態度にしたのだろう。
 が、先程まで寝ていたのだ。
 まだ眠そうに、こしこしと目を擦る。

「すまぬな。ま、もう夜も遅い。頭領にも迷惑故、そう長居はせぬよ」

 穏やかに、長老は深成に語りかけた。
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