夜香花
「ふふ。真砂が面白いと言った意味がわかったような」

 清五郎が、言い合う二人を見て言った。
 が、真砂は顔をしかめて清五郎を見た。

「俺が面白いと言ったのは、こういうことじゃない」

「ま、いいじゃないか。でもそういえば、この娘が真砂の傍にいたら、さすがの千代も真砂のところに行けないだろ? よくあいつが黙ってるもんだな」

 何故か楽しそうに、深成に笑みを向ける清五郎に、深成はちょっとたじろいだ。
 千代はこの清五郎にも抱かれていたという。
 いろんな男に身を任せている千代からしたら、清五郎もそのうちの一人なのだろうが、清五郎もそうなのだろうか。

「さぁな。別にそんなこと、どうでもいいさ」

 あきにしても千代にしても、真砂にとっては何の興味も惹かないらしい。
 深成はひそりと、ため息をついた。

「さて」

 長老が、河原の岩に腰掛けて、深成に目を向けた。

「何か、思い出しましたかな?」

 言われて深成は、ようやく何をしに来たのかを思い出した。
 昨夜はとっとと寝てしまった。
 起きてすぐに、また食事を巡って真砂と不毛な喧嘩をし、お陰で別に、ゆっくりと記憶を辿ったりする暇はなかったのだ。
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