夜香花
「ん~……。例えば?」

 首を傾げながら言う深成に、長老は、そうじゃな、と前置きし、ぐるりと辺りを見回す。

「例えば、お前さんの育った山の風景とか。こういう風景だったかいの? そう山奥でもなかったであろうが、とすると、どこからか城下が見えたということか?」

 深成も同じように、辺りを見回す。

「どうだったかなぁ~……。爺の家からは、城下町なんて見えなかったんじゃないかな」

「でも、通いであの屋敷に行っていたのじゃろ? そう離れておらんと思うのじゃが」

「そうかもしれないけど。真砂には言ったけど、行き帰りは負ぶわれてたんだよね。だから、道も全然わかんない」

「負ぶわれていたとしても、周りは見えているだろ?」

 真砂が口を挟む。
 毎回毎回景色を見ていれば、いい加減道だって覚えるだろう。
 道を覚えることだって、忍びの能力の一つだ。

「その行き帰りだって、忍びの訓練の一つに役立ててたんじゃないのか? お前のその、偏った能力によっちゃ、道ぐらい覚えられるだろ」

 いまいち深成の能力はわからないが、真砂の見たところ、基本的な忍びの能力は、普通よりも優れている。

 そういえば、この里にまで難なく辿り着いたのだ。
 ここに来たこともないくせに、罠にも引っかからずに、見事真砂の元へと忍んで来ている。
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