夜香花
「お前、一体どうやってここまで来た」

 真砂は深成を睨んだ。
 その鋭い視線に、深成は、びく、と身を竦める。

「あのとき、お前は傍の溝に沈んで、戦をやり過ごしたと言っていたな。だとすると、俺たちの後をつけてきたわけでもあるまい。実際お前が現れたのは、あの戦から結構経ってからだしな。何故ここがわかったんだ」

「後はつけてないけど……」

 真砂に気圧されたように、深成はちょっと身を引きながら言う。

「あんたたちが去っていく方向を見極めた」

 相変わらず視線は深成に据えた真砂の眉間に皺が寄る。
 あの屋敷は、そんな山のすぐ傍に建っているわけではなかった。
 去る方向を見ていたって、ここまで来られるわけはない。

「方向を見ていたって、ここまでわかるわけないだろう」

「ここまでは、わかんないよ。でも、あんたたちが去った方向に、注意深く進んでいった。それこそわらわが爺に負ぶわれて、家に帰ったときの感じを思い出しながら進んでいったら、辿り着けたんだもん」

「んなわけあるか。そんな簡単にわかるような里ではないぞ。馬鹿にしてんのか?」

 清五郎が声を荒げ、腰に挟んだ刀を掴む。
 深成は慌てて中腰になり、真砂の後ろに隠れた。

「お前、真砂に助けを求めるとは、良い度胸だ」

 どうも真砂を頼ることは、男女問わずここでは御法度のようだ。
 清五郎が刀の鯉口に手をかける。
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