夜香花
「頭領っ」

 どこからか、男よりも年上であろう青年が駆けてくる。
 青年は先の影の消えたほうへ刀を構え、視線を動かした。

「追う必要はない。毒針だ。今頃はもう、動けないだろうさ」

 乱れた着物の合わせを直しながら、男が言う。
 そして、小屋に戻ると裸の女を蹴り出した。

「こいつ、昨日迷い込んできた女子(おなご)じゃないか。仲間だったんで?」

「さぁな。いきなり夜這いをかけてきやがった。まぁ、こっちもそれなりに楽しませてもらったがな」

「頭領でも、やっぱりそういうことは楽しむのか。にしても、哀れなもんだ」

 青年は女の屍に屈み込み、身体を調べる。
 先に男を襲った者と関係があるなら、少なくとも堅気ではない。
 男や青年に関する者---乱破者なら、どこかに印があるはずだ。

「そんな簡単に見られるところにあるなら、夜這いなんぞかけんだろう。自信があったのかもしれんが、行為に夢中になるようでは、手練れとも思えん。それに、そんなこと、どうでもいい」

 女が己を殺すべく送り込まれた者だとしても、すでに始末したのだ。
 つい先程まで繋がっていた女とはいえ、勝手に相手が乗ってきただけ。
 男の中では終わったことだ。
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