夜香花
「爺が死んだのは、いつのことだ」

 ぼやく深成のことなどお構いなしに、真砂は話を進めた。
 清五郎と違い、真砂は深成の妙な能力のことは、散々目にしている。
 それが全て整息の術故というわけにはいかないが、整息の術が完璧であれば、忍びとしては相当有利だ。

 自身の気配を絶つことも、相手の気配を察知することも容易になれば、以前のように、寝ているところにいきなり苦無を投げつけられても、避けることが出来る。
 周りの全ての気を感知できれば、深成の能力のほとんどは、完璧な整息の術で説明がつくのだ。

 大分前に立ち去った者の後を追う能力や、驚くほどの俊敏さなどは、天性のものもあるのだろう。
 それについては、突き詰めても詮無きことだ。

「ん~……。はっきりとは、わかんない」

「お前の前で死んだわけではないのか」

 ふるふると、深成は首を振った。

「いつものお迎えが来なくなってさ。だから、死んじゃったんだなって」

「は? それだけか?」

「だって、爺はいっつも言ってたもの。いつまで来られるかわからんって。近々お役目があろうから、そうなったらお前はお屋敷に留まりなさいって。自分のことは、死んだと思いなさいって」
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