夜香花
「お役目……」

 真砂の目が光る。
 お役目がある、というからには、上役がいるはずだ。

 それも、おそらく忍びの頭領のようなものではない。
 公式な、武家に仕えていたのではないか。

「爺様の周りには、どういった者がおられた? 山里で暮らしてはいても、人が訪ねて来たりすることもあろう。どういった者を見かけたのじゃ?」

 同じ事を思ったように、長老が優しく聞いた。
 長老が声をかけると、深成はあからさまに、ほっとした表情になる。

「んと、う~ん……。難しい……。だってわらわが家にいるのって、夜だし。そんな夜には、そうそう人も来なかった」

「……全く、役に立たない奴だな」

 舌打ちしながら、清五郎が忌々しげに言う。
 深成はまた、清五郎を、ぎ、と睨んだ。
 『この人嫌いだ』という文句が、ありありと顔に浮かぶ。
 やれやれ、と、長老はため息をつき、真砂を見た。

「頭領は何故、この娘御を殺さなかったのです?」

 いきなり矛先を自分に向けられ、真砂は少し怪訝な表情になった。
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