夜香花
「自分に刃向かう者など、即座に斬り捨てる頭領が、こうもあからさまに自分をつけ狙う者を放っておくなど、珍しいことではないですか」

「そうだな……。何故だろう」

 どこかぼんやりと、真砂が言う。

「初めに俺が殺そうとしたときも、真砂は止めたな。子供だからって、情けをかけたわけでもあるまい」

 清五郎も、思い出したように言う。
 細川屋敷で初めて会ったときから、深成は何度も真砂に命を救われている。
 だがそれは、結果的に救ったことになっただけで、別に意識して真砂が救ってきたわけではない。

 子供だろうが女子だろうが、真砂には関係ない。
 邪魔をすれば誰であろうと容赦なく排除する。
 深成だって、命こそ取られていないけれども、何度も本気で真砂にぶちのめされているのだ。

「興味があったからだ」

 何故か、と問われれば、その一言に尽きる。
 清五郎は、納得したような、していないような微妙な顔で黙っている。

「こいつがそれなりの歳の忍びなら、即座に殺したかもしれん。どんな奴でも、十五年も修行すれば、それなりの忍びにはなる。忍びとして役に立たないような奴なら、それまでに死んでるだろうしな。ガキで阿呆なくせに、能力的には飛び抜けているこいつは、調べる価値があると踏んだんだ」

 深成も微妙な顔になって、真砂を見つめた。
 さすがにしみじみと『阿呆』と言われると、こたえる。
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