夜香花
「あんたは、ほんっとに、素直に人を褒めることがない……」

「褒めてない」

 深成の呟きをばっさりと斬り、真砂は空を仰いだ。

「爺ってのが武家の誰かに仕える者だとすると、単純に考えれば、西軍の誰か……。まさか爺本人が、そうではあるまい。西軍の武将に仕える侍ってところか。近くお役目があるってのは、多分この戦のことだろう」

 ちょい、と川の流れの先を指す。
 今、東のほうでは大きな戦が起こっている。
 世に言う天下分け目の決戦だ。

「お前の爺は、生きてるんじゃないか?」

「ええっ。じゃあ何で何年も、わらわを放っておくのさ」

「阿呆。戦にお前なんぞ連れて行けるか」

「ああ、爺は心配してくれてたんだね。危ないもんね」

 しみじみと言う深成に、真砂はこの上なく冷めた目を向ける。

「ていうか、お前なんぞ連れて行っても、邪魔だからだ」

「何でよっ! さっきあんただって、わらわの機敏さは普通じゃないって言ったじゃん! だったら邪魔にはならないでしょっ」

 むきーっと噛み付く深成と、渋面の真砂の間で、清五郎は複雑な表情で二人を見つめていた。
 全くこの小娘は、何と恐れ知らずなのか。
 真砂も、今まで自分に対してこのような態度を取る者がいなかったから、どう対応していいのかわからないのかも、と、真砂を観察する。
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