夜香花
「えええええっと!! ……う~んう~ん」
一瞬にして変わった空気に、深成は慌てて、また記憶を探った。
氷のような無表情で、殺気にも似た空気を纏われるのは、しゃれにならないほど恐ろしい。
「あのっ。ち、地名とかは言わなかったと思うんだけど。言われても、わらわにはわかんないし」
「地理的なことは、教わらなんだのか?」
取り繕うように優しく言う長老に、救われたように深成はこくりと頷いた。
「んと、稲荷がどうのって……」
「稲荷だと?」
「稲荷山に詣でるとか言ってた」
「稲荷山……伏見か」
顎を撫でながら呟いた真砂に、長老が、なるほど、と小さく頷いた。
「伏見には、大名屋敷がありますな。なるほど、確かにお前様は、大名に仕える誰かに育てられたのじゃろ」
「それはわかってるんだ。そもそも細川の室のところに出入りできる時点で、それなりの出自でないといかん。問題は、その出所が誰かってことだ」
伏見にある大名屋敷は、一つではない。
結構な数の屋敷がある。
伏見、というだけでは、核心に近づいたとは言い難い。
真砂は、ち、と舌打ちした。
一瞬にして変わった空気に、深成は慌てて、また記憶を探った。
氷のような無表情で、殺気にも似た空気を纏われるのは、しゃれにならないほど恐ろしい。
「あのっ。ち、地名とかは言わなかったと思うんだけど。言われても、わらわにはわかんないし」
「地理的なことは、教わらなんだのか?」
取り繕うように優しく言う長老に、救われたように深成はこくりと頷いた。
「んと、稲荷がどうのって……」
「稲荷だと?」
「稲荷山に詣でるとか言ってた」
「稲荷山……伏見か」
顎を撫でながら呟いた真砂に、長老が、なるほど、と小さく頷いた。
「伏見には、大名屋敷がありますな。なるほど、確かにお前様は、大名に仕える誰かに育てられたのじゃろ」
「それはわかってるんだ。そもそも細川の室のところに出入りできる時点で、それなりの出自でないといかん。問題は、その出所が誰かってことだ」
伏見にある大名屋敷は、一つではない。
結構な数の屋敷がある。
伏見、というだけでは、核心に近づいたとは言い難い。
真砂は、ち、と舌打ちした。