夜香花
「もうちょっと、何かないのか。……そうだ」

 ふと思い出し、真砂は深成を見た。

「お前、確か初めは懐剣を持っていたな。あれはどうしたんだ?」

「え?」

「細川屋敷で、いきなり斬りつけてきただろうが。あのとき持っていた懐剣は、お前のか?」

「ああ、あれ……」

 ぽん、と手を叩き、深成はこくんと頷く。

「そうそう、あれは唯一、爺がくれたの。だから大事にしてるよ」

「今は持ってないのか」

 言いながら、真砂は深成の腕を引っ張って引き寄せると、身体をぽんぽんと叩いて刀を捜す。
 着物の上からとはいえ、いきなり身体中を触られ、深成は慌てて暴れまくった。

「ちょーーっ! 何すんのよっ。この助平っ!」

「はぁ? 何を期待しているんだ。こんな、どこが腹か乳かもわからんガキのくせして」

「なーーーっ! ちょっと! いくら何でも、それは言い過ぎでしょっ!」

 ぎゃーすか怒る深成を放し、真砂はまだ胡乱な表情の清五郎に目を向けた。

「一目でそれとわかる懐剣だったな。お前、どういうものだったか、覚えてるか?」

 問われて清五郎は、空(くう)を睨んでしばし考えた。
 確かにあのとき、清五郎も一緒にいたが。

「……いや、一瞬だったしな。けどそうだな、錦の袋に入った、立派な物だったぜ」

 さすがに真砂と並ぶほどの乱破だけあり、清五郎は一瞬でも、ちゃんと見ている。

「家紋が入っている可能性も高いな」

「まぁな。でも、それが主家からの賜り物だとして、こんなガキに下げ渡すかな?」

「……ま、いい。とりあえず、調べてみる価値はあろう」

 そう言って、真砂は立ち上がった。
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