夜香花
 あっという間に斬り刻まれるかと思ったのに、予想に反して何も起こらないことに、深成は震えつつも、そろそろと顔を上げた。
 その目に、驚いた表情の少年が映る。

 驚いてはいるが、身体はすでに立ち上がり、手は苦無を構えている。
 事前に何者かが現れることを想定した上での態度だ。
 それだけで、前の羽月とかいう少年とは違うとわかる。

「……」

 黙ったまま、捨吉は真砂を見た。
 深成の鼓動が高鳴る。

 真砂が頷けば、この少年は躊躇いなく手の苦無を放つだろう。
 羽月と違い、この少年からは簡単に逃げられそうもないと思い、深成は亀のように小さくなった。

「で? 何がわかったんだ」

 しばしの沈黙の後、真砂が特に変わらぬ口調で口を開いた。
 油断なく苦無を構えていた捨吉は、真砂に顔を向けると、ゆっくりと手を下ろした。

「……伊賀や甲賀を洗っていて、ちょっと他にも目を向けてみたんですが」

 問われたことに答えながらも、目は深成に据え、立ったままだ。
 とりあえず真砂の問いに返事をしてから、ようやく捨吉は床に蹲る深成を指差した。

「頭領。こいつは?」

「気にするな。ネズミみたいなもんだ」

「んなっ」

 真砂の例えに、がばっと顔を上げた深成だったが、じろりと睨まれて、また小さくなる。
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