夜香花
「だから、忍びとしての活動よりも、もっぱら香具師(やし)や薬師のような、生活の糧を得るほうに重点を置いた職業が盛んです。実直な生活、というんですかね」

「それで?」

「なので、里を調べるんじゃなくて、里から出た者のほうが重要なんじゃないかって」

 そう言って、捨吉は隅で膝を抱えている深成を見た。
 改めて、その幼さに驚いたように、目を見開く。
 先までは亀の如く縮こまっていたので、よく見えなかったのだろう。

「……あの、頭領。こいつが、例の刺客……ですか?」

 言いにくそうに、捨吉が言う。

「お前も知ってんのか」

 言ったものの、当たり前か、と息をつく。
 前に夕餉を持ってきた娘も知っているようなことを聞いたし、そのような小娘が知っているということは、里では有名な情報なのだろう。

 それでなくても、捨吉は羽月ら、あの辺りの少年たちの取り纏め役的存在だ。
 羽月が護衛を申し出たのも、真砂が刺客に狙われていると知ったからだ。
 羽月が知っているなら、捨吉も知っていて当たり前だ。

「そりゃあ……。でも、こんな娘っ子だとは……」

「こいつがお前に調査を頼んだ、赤目の残党だ」

 ええ? と捨吉が身を乗り出す。
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