夜香花
「何を聞いてたんだ。その懐剣を調べるために、持ってこさせたんだろうが」

 これまたきょとんと、深成が真砂を見る。

「懐剣なんて調べて、何がわかるっていうのさ」

 呆けた深成の言葉に、真砂の額に青筋が立った。
 業を煮やしたように手を伸ばすと、深成を身体ごと押さえつけた。

「ぐだぐだ言ってんじゃねぇ! とっととよこせ!」

「にゃーーーっ!」

 べちゃ、と床に押さえつけられ、じたばたと暴れる深成から懐剣を奪うと、真砂は手早く錦の袋の口を縛っている組紐を解いた。

「返せ! どろぼーーっ!」

 ぎゃーすか喚きながら背中に取り付く深成に呆れ、真砂は眉間に深く皺を刻んで捨吉を呼んだ。

「おい。この猿を押さえておけ」

 ぶ、と吹き出しつつも、捨吉は素早く深成を後ろから羽交い締めにし、真砂から引き離す。

「何笑ってんだよぅっ! 離せーーーっ!」

 ずるずると引き摺られながらも、深成はうるさく喚く。
 先は思わぬ身軽さと脚力に驚かされたが、こうやって押さえ込んでしまうと、じたばたと暴れる子供にしか見えない。

 まさに猿だ、と思うと、さらに笑いがこみ上げる。
 捨吉は堪えきれず、声を上げて笑った。
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