夜香花
「あははははっ。頭領の言うとおり、ほんとに猿のようだな。頭領、首に縄でもつけておきますか?」

「そうだな。そのほうが、鬱陶しくなくていいかもな。でもそうすると、ずーーっとぎゃーすか喚かれそうだ。俺の精神力がもたん」

 捨吉もまだ少年の域を出ないが、十四になるので深成よりは随分体格も良い。
 しっかりと訓練を積んでいるので、相手を押さえ込むのも上手だ。
 いくら暴れても捨吉の腕から逃れられず、深成はぎゃんぎゃんと喚き立てた。

「何さっ! ちょっとは物の言い方ってのを考えたらどうなのっ! 元々あんたがわらわのことを馬鹿にするからじゃないか! 乙女に向かって、猿って何だ!!」

 こうなると、もう真砂は完全に無視に徹する。
 いくら深成が喚いても、答えもしなければ、見もしなくなった。

「……気が済んだかい?」

 叫びすぎて、若干くたりとした深成の背後から、捨吉が言う。

「頭領。この子、ずっと頭領と一緒にいるんですか?」

「あ? ああ」

 捨吉の、若干の言葉の変化に、僅かに眉を顰めながら、真砂が答える。

「じゃ、頭領の邪魔さえしなければ、別に捕まえておく必要もないわけですよね」

 そう言って、ぱ、と戒めを解く。
 ぺたりと深成は、その場にへたり込み、腕をさすった。
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