夜香花
「そんで? 何かわかったわけ?」

 ずりずりと這いずって、真砂の袖をつつく。
 その態度に、何故か捨吉が慌てた。

「こら。邪魔するなって」

 急いで深成の襟首を掴んで引っ張る。

「邪魔じゃないよっ」

 ぶん、と捨吉を振り払い、深成は、ささっと真砂の向こう側に逃げた。
 真砂を盾にすれば、誰も手出しは出来ない。
 思った通り、捨吉の動きは止まった。

「お前は、また……」

 真砂だけが、渋い顔で深成を見上げる。
 が、深成は気にもせず、すとんと真砂の陰に座った。

「大人しくして欲しいんでしょ。だったらあんたが、わらわを守ってりゃいいのよ」

「何だそれ」

「あんたの興味は、わらわにあるんでしょ。だったらあんたは、わらわを守らなきゃ」

「別に俺は、お前が死んでも構わんと、前々から言ってるだろ。そもそもお前なんざ、何の情報も持ってないじゃないか。何も覚えてないし、役にも立たん」

 またも、むきーっと深成がいきり立つ。
 が、確かに真砂の言うとおりだ。

 元々自分がどこにいて、誰に育てられたか。
 暮らしていた山里は、一体どの辺りにあったのか。
 何も覚えていない。
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