夜香花
「そうだ、頭領。この子を連れて、伊賀のほうに行ってみればどうです? 実際に土地を見れば、何かわかるかも」

 捨吉の提案に、真砂は渋い顔をした。
 元々人とつるむことを厭う真砂だ。
 ここから伊賀の里まで、そんな遠くもないが、簡単に往復できるほど近くもない。
 そんな長旅に、こんなガキを伴うなど、考えただけでも怖気が走る。

 だが、捨吉の情報を元に、伏見のほうを洗ってみる価値はあると思っている。
 今はこの里は平穏だが、少し前から、ちらほら入る、城主の重臣やこの前の正室の暗殺依頼からして、下界の戦は山場を迎えているに違いない。

 ここだって、周りに城を抱えている。
 どこの城主に抱えられているわけでもないが、主を持たない優秀な忍びほど、城主にとって恐ろしいものはないのだ。
 城攻めのついでに、この里も総攻撃を受ける可能性がある。
 事前に下界の戦の動きを調べるためにも、大名屋敷の多い伏見は、調べる価値があるのだ。

「なら捨吉。お前が連れて行け」

 捨吉であれば、羽月とは違い、深成程度は御せるはずだ。
 それに、別に真砂は深成を捕らえているわけではない。
 道中逃げられたって、どうということはないのだ。
 むしろ厄介払いが出来るというもの。

 だが意外にも、不満の声を上げたのは深成だった。

「えええっ何でよ。何で真砂と一緒じゃないの?」

 真砂にとっては意外だったのだが、捨吉にとってはそれなりに納得できる態度らしい。
 何てことのないように、後ろから深成を引っ張る。

「ま、お前さんが頭領といたがるのは、わかるけどな。歳を考えろよ。いくら何でも頭領のお相手をするにゃ、子供過ぎるだろ。諦めな」
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