夜香花
 一方一気に城下まで走った真砂は、まず事の起こりの細川屋敷に向かった。
 といっても、屋敷は爆発でなくなり、屋敷跡ともいえないような瓦礫の山があるだけなのだが。

 大戦が始まっているとはいえ、実際の戦場になっているわけではないし、その戦に細川勢は皆出払っているので、静かなものだ。
 とりあえず、あまり目立たないよう、陰に陰にと移動しながら、真砂はかろうじて残っている外壁の周りを一周し、伏見のほうへと目を向けた。

---ここから、忍びの足で移動するとなると……---

 考えつつ、でも少し速度は緩めて、真砂は伏見へと向かった。
 相手はおそらく、純粋な忍びではない。
 訓練を受けた、単なる侍ではないのか。

 捨吉が言っていた、大谷屋敷に仕える者であれば、忍びとまではいかなくても、ちょっと普通よりも役に立つ者が多いのも頷ける。
 大谷の殿様は、病気がちだという。
 戦うときも、輿に乗って戦うという話だ。
 そのような状態であれば、側近も自然、常人よりも動ける者のほうがいい。

---大谷屋敷を探るか---

 細川屋敷から伏見の大谷屋敷まで、想像の人物を思い描きながら、その者になったつもりで足を運ぶ。
 それにより、本当にその者が深成を運んだのかがわかるのだ。
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